ダイバーシティ&インクルージョン
2021.5.21

「異彩を、放て。」誰でも自分らしさ、個性が発揮できる福祉実験ユニット

松田 崇弥

すべての人が「しあわせ」を感じられるインクルーシブで豊かな社会の実現に向けて、各界のリーダーから提言をいただく連載コンテンツ「Inclusion Rally」。
第6回は、自分らしさや個性の発揮を目標に掲げ、「誰でも自己の異彩を放つことができる場」を提供する(株)ヘラルボニー 代表の松田 崇弥さんにインタビュー形式でご登場いただき、事業の立ち上げのきっかけや、目標とすることについてうかがいました。

目次

    地元の友人に「すごい」と言わせる「福祉×アート」をつくりたかった

    ―ヘラルボニーさまのビジネスについて、簡単にご紹介いただけますでしょうか。

    僕は一卵性の双子なのですが、20187月に双子の兄である文登と会社を立ち上げました。文登は出身地である岩手県を、僕は東京を担当し、2拠点で展開しています。
    おもに、アートライフブランド「HERALBONY」など、障害のあるアーティストが描いたアート作品の社会実装や、福祉を軸とした新規サービスの企画立案・開発、社会実装などを行っています。ヘラルボニーのアート作品は、上野マルイの店舗内装にも使っていただいています!

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    上野マルイのタイルアート

    ――事業の立ち上げにいたったきっかけについて教えてください。

    立ち上げたきっかけは、私たち双子の4つ上の兄の翔太が知的障害をともなう自閉症だったということです。兄に障害があることを親戚に「かわいそうだ」と言われるたびに、勝手に決めつけられていることを「いやだな」と感じていたのですが、24歳の夏に岩手県の「るんびにい美術館」という、社会福祉法人が運営する美術館に行き、衝撃を受けました。
    自分が通っていた中学校は、障害のある方をからかうような風潮があったので、そんな地元の友人にもすごいと思わせることを、アートを通じて自分でも成し遂げたい!と思いました。そのためにはやはり影響力が重要だということに気づき、地元の友人も話題にするようなアパレルや車の「ブランド」に着目しました。「福祉とアート」に「ブランド力」を組み合わせることで、よりおもしろいことができるのではと思いました!

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    兄の翔太さんが自由帳に書いた謎の言葉「ヘラルボニー」を会社名に(画像右下)

    ――「かわいそうだ」という決めつけへの違和感は、「るんびにい美術館」に出会うまでずっとあったのでしょうか?

    そうですね。小学生までは兄も一緒に遊んでいましたが、中学生という多感な時期になり、障害を揶揄した言葉を使ったり、「人との違いを馬鹿にする」雰囲気が周りにありました。そのせいで兄のことを他人に言いづらくなったり、兄と距離を置きたかった時期もありましたが、「るんびにい美術館」と出会い、考えが大きく変わりました。今では、そういう思いを他の人にはしてほしくないと思っています。

    「必ず成功する」と確信していた、アート作品の魅力

    ――福祉を軸として事業を確立するまでに苦労もあったと思いますが、以前新聞のインタビューで語られていた「今ある才能を金銭的に価値づけする」という想いにいたったのはなぜですか?

    兄に実際に会った方は、兄に重度の障害があると感じ、「できないこと」ばかりだと思われがちです。確かに、以前は一人で「できないこと」もたくさんありましたが、今は電車に乗ったり、皿洗いもできるようになったりと、「できること」の範囲が広がり、すごいと感じています。
    ただ、「できないこと」をできるようにすることも可能だと思いますが、本人の才能を評価してもらう方が良いと感じました。重度の知的障害や自閉症、ダウン症などの、本人の特性が表れたおもしろい作品に金銭価値を見出す方が本質的なのではないかと考えています。

    ――これまでで一番大変だったことは何ですか?

    最初の半年は前職である広告代理店のつながりで仕事をもらい、福祉とは関係ない仕事も請け負いながら、ヘラルボニーを育てていました。「福祉とアート」というビジネスの構想はありましたが、福祉施設の方にご説明しても「すばらしいですね」の一言で終わってしまっていました。転機となったのは、パナソニックさんの新しいオフィスの壁紙とクッションにヘラルボニーのアートを採用していただいたことです。

    ――「ヘラルボニー」を世の中に出す一歩が、パナソニックさんだったんですね。

    そうですね。ただ、自分の中ではずっと、「ヘラルボニーのアート作品はかっこいい」という自負がありました。
    「障害がある人は皆アーティスト」という考え方には賛同しかねます。ですが、とても才能があってすてきな作品を生み出しているにもかかわらず、知ってもらう機会がない人たちを、フラットな目で評価してもらえる社会にしたいという想いを持っています。自分がすてきだと感じた作家さんたちと契約を結んでいるという自信があったので、「成功するはずだ」と確信していました。

    ――事業をやっていてうれしかったことをおうかがいできますか。

    普段はあまり店頭に立っていないのですが、一度ヘルプで接客に入った際、お客さまが、僕と話をした後にハンカチをもう一枚追加で購入してくださったことがありました。理由を聞くと「娘の息子(お孫さん)が自閉症なので、娘に渡したい」とのことでした。
    作品自体を気に入ってくださっただけでなく、きっと娘さんやお孫さんに障害のある方の可能性を伝えてあげたいのだろうなと感じ、ハンカチを通して僕たちの理念を買ってくださったことに感動しました。

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    ――これから、どんな目標やビジョンをめざしていますか?

    一度やってみたいことは、障害のある方のありのままの姿から価値を生み出すようなレーベルの立ち上げです。例えば、自閉症の人は水たまりでずっと飽きずに遊び続けたり、自分の頭を叩いてしまうことがありますが、その音を収録してビートにしたり、トラックメーカーの方と組んでラップを乗せて、「ヘラルボニー・ルーティーン・レコーズ」からリリースしてみたいです!
    会社としては、「障害のある人の人生も、これだけ変わりました」と具体的に数字で実績を示せるようになりたいです。具体的には、「マリメッコみたいなブランドになりたい」とベンチマークしています。「マリメッコ」と聞くとあの代表的な花柄が想起されますよね。同じように「ヘラルボニー」と聞いた時に柄が想起されるようになったら、世の中の障害に対するイメージが大きく変わるんじゃないかなと思っています。

    めざすべきは障害がある方のインフラづくり

    ――アーティストの方やご自身と社会は、どのようなつながりが理想であると考えますか?

    ダイバーシティという言葉が普及しているのはすばらしいことですが、「理解しなければならない」というプレッシャーも感じます。ですが僕は、お互いが必ずしも理解し合う必要はなくて、「ただ単に触れてみる、知ってみる」ということが重要だと思っています。例えば、障害のある人と一日過ごしてみたり、握手してみたり、そういう「『未知』のものを『既知』の状態にしていく」機会をたくさんつくりだしたいです。
    また、事業計画書では「障害がある人たちのイメージや、生き方を変えていく」ということを将来的な目標にしています。もし子どもが重度の障害と診断されても、「ヘラルボニーがあるから就職も心配ない!」と安心してもらえるような、インフラのような会社になりたいです。

     

    ――前回のゲストの治部さんから「職場や友人の中にも、何らかの支援を必要とする人はたくさんいると思います。『障害」をひとくくりにせず、個を尊重した関係性を築いたり、同僚や友人として的確なサポートをするために、必要なことは何ですか?」という質問をいただいています。この質問に対してのご回答をお願いします。

    自分たちは知的障害のある方たちに食べさせてもらっている、言わば「支援されている」立場だと思っているので、「支援」「サポート」という言葉はあまり使わないです。一方的に「支援しよう」と考えないことも大事なことの一つだと感じます。

     

    ※今回のインタビューは、以下ヘラルボニーさまの表現に則り掲載しています。
    「障害」という言葉については多様な価値観があり、それぞれの考えを否定する意図はないことを
    前提としたうえで、ヘラルボニーさまでは「障害」という表記で統一しています。『害』という漢字を敢えて用いて表現する理由は、社会側に障害物があるという考え方に基づいているためです。

     

    HERALBONY(ブランドサイト)
    http://www.heralbony.com

    「HERALBONY GALLERY」クラウドファンディング
    https://www.makuake.com/project/heralbony/

    • ヘラルボニー コーポレートサイト

    • 株式会社ヘラルボニー - ”異彩を、放て。”をミッションに掲げる福祉実験ユニット
    • http://www.heralbony.jp

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