丸井グループでは、さまざまな企業・人と力を合わせてインパクトを生み出す取り組み「共創」に注力しています。「共創チーム」と言われるチーム数や人数も増え、店舗でのイベント開催やエポスカードとのコラボ、物流での協業など、常にさまざまな取り組みが行われています。「Partner's interview」では、そんな丸井グループの共創の最新事例や、担当者による想いをご紹介! 第6回は、電波が届かない山の中でも現在地がわかる登山地図GPSアプリ「YAMAP」を生み出し、登山・アウトドア用品のセレクトオンラインストア「YAMAP STORE」も展開するなど、日本の自然と風土に豊かさを再発見する仕組みづくりを追求されている株式会社ヤマップさまとの共創についてお届けします。
2011年3月11日に発生した東日本大震災です。僕はもともと写真家になるのが夢で、それは今も変わっていないんですけど、あの地震、そして原子力発電所の事故によって故郷を離れざるを得ない人たちがいるという現実を前に、写真表現で社会に届けるだけではインパクトが小さいのではないかと思いました。「3.11の経験があったから自分はこういう生き方をした」と言えることをやらないと、自分の人生に悔いが残るんじゃないかと。そこで何かできないかと考える中で、2011年5月、大分県のくじゅう連山を歩いている時に、地図データをあらかじめスマートフォンの端末に保存しておけば、電波が届かない山の中でもスマートフォンがGPS機器として活用できるのではないかと「YAMAP」の仕組みを思いつきました。その仕組みをサービスとして世に出すため、一心不乱に取り組み、2013年に「YAMAP」をリリースしました。
それまで経営者になりたいと考えたことは一切なく、あったのは「世の中に良質なインパクトを届けたい」という想いだけ。起業は困難がつきまとうのですが、何があっても諦めなかったのは、3.11の経験があったからだと思っています。
私は震災前から、日本を含む先進国で暮らす人々の多くが身体を動かしていない、土から離れた生活をしていることが気になっていました。食料やエネルギーなど、自分たちの暮らしに不可欠なものを他人任せにしたままでいいのだろうかと。これから重要になるのは「地域で自立した暮らしをどうつくっていくか」です。私は、そのベースは自然や故郷あるいは土地とのつながりだと思っています。それがあれば、環境や風土、暮らし方への議論がもっときちんとできるはずです。登山やアウトドアを通して、土地や風景との結びつきをもう一度深めたい。自律分散型の地域社会の実現につなげたい。それが、ヤマップをやっている背景です。
これまでの起業の定石は、市場の大きさを見てからプロダクトやサービスに落とし、社会や世の中に届けるといったやり方です。それが今は、まず社会を見て、そこに欠けているものや課題をビジネスに落として事業化し、社会にインパクトを与える潮流が大きくなってきています。一般的にはソーシャルビジネスという言葉で表現できると思います。社会課題や自分たちの暮らしの課題をビジネスで解決することができればインパクトは大きくなる。課題解決型のビジネスを展開することで、ユーザー数が多いとか使う人の熱量が高いということになり、その熱量が売上利益につながっていきます。創業当時はそれがわかっていたわけではありませんが、自分が課題だと思ったことを事業化したことで現在があります。
人が経済的に豊かになることで、環境風土が貧しくなることは許されない時代に入っています。私たち人類に課せられた使命は、人が自然や山にかかわることで、それらがより豊かになる仕組みをつくって実現すること。それには一企業だけでなく、多くの企業と連携しながら取り組むことが重要です。丸井グループは、サステナビリティ経営にも真剣に取り組んでいらっしゃいます。お客さまの感度も高く、私たちインターネット企業の弱みであるリアルの接点が丸井グループは強い。ヤマップの取り組みや想いを多くの人に知っていただき、理解者や賛同者、仲間を増やしたい。いわゆる循環の輪をリアルの場でもちゃんとつくっていこうという方向性の中で、マルイの店舗は非常に好立地でメッセージ性が強いと感じました。
私たちが投資を検討する時、基本的にその企業の商品やサービスを実際に使って使用感を確かめ、本当に良いと思ったものだけを選択させていただいています。今回も、チームメンバー3人で「YAMAP」アプリを使って山に登りました。私は登山経験がほとんどなかったのですが、とても使いやすいUI/UXで、事前にダウンロードした地図とGPSの機能がピタッとはまって、自分の所在地が都度、確認できて安心でした。さらにルートを決める際には所用時間や難易度、そこから見える景色などの情報をユーザーが投稿している「活動日記」などで調べて検討することも楽しくできました。さらにすれ違った時に通信する「こんにちは通信」機能によってたくさんの方が山登りの必須アイテムにされていることがわかり、仲間意識のようなものも感じられました。何より、ヤマップさんのパーパスを意識して山を登ることで、自然の中を歩く気持さ良さを体感でき、「また登りたい」「自然を大切にしたい」という想いが湧き上がった。これらの感動体験が決め手でした。
山や自然に対しての「好き」を応援したいということを軸に、お互いのアセットをうまく活かしながら、登山やアウトドアの裾野をより広げ、深堀りすることができたらいいなと強く思っています。例えば、「YAMAP」を使えば安全に、かつ、より楽しく登山ができるという体験をエポスカードのサービスに埋め込むとより魅力的になるのではないかと思っています。より安全に山が登れる機能やツール、自然の中での体験が少しリッチになるようなサービスなどの購入に使えるエポスカードを、楽しく山に登るためのいわば会員証みたいな位置づけにできたらいいなと。
また、丸井グループの物流機能やリアル店舗などを使うことで、ヤマップさんのサービスや想いを発信できると考えています。例えばポップアップイベントや、山の風景や世界観を体験できる催し、山に登る道具の紹介や体験コーナーの実施といったものも、私たちならできます。山に登ったことがない人でもちょっと見に行ってみようかな?というきっかけづくりに、店舗を活用していける思っています。
単に消費する「好き」じゃなくて、関係性の深まる「好き」は好きの最上位ですよね。今回、丸井グループさんとプロジェクトやコンテンツなどを一緒につくっていこうという関係性が築け、リアルの場でも新しいチャレンジができると感じています。
自然が豊かな日本に暮らしていながら、山登りや山歩きをする人たちが1億2000万人の人口の1割にも満たない。これが最大の課題だと思うんです。映画や公園に行く感覚で、月に1回は山に行くといった選択肢が、社会に根づかせたいと考えています。そのためには、登山者だけに向けたサービスでは足りないんですね。まずは登山を愛好している人たちを束ね、登山者の方々から共有される情報を社会に発信、あるいは知識として貯めていけば、ウィキペディアのように集合知になります。ツールとコミュニティを一つのサービスの中で提供し、社会にインパクトを届ける。コミュニティをサービスの核にすることができれば、登山・アウトドア分野を、近い将来、教育やヘルスケアといった他のジャンルにも接続できるのではないかと考えています。共助ですごく重要なのは、やはりコミュニティですから、趣味趣向や価値観が同じ人たちを束ねることは、とても重要になるはずです。
具体的には、丸井グループのお客さまやエポスカードの利用者さまを含め、自然系の取り組みにご興味のある皆さんと一緒に森づくりをしたいと考えています。エポスカードのポイントの一部を、関東圏の水源地の森づくりに活用することなどができればいいですね。そういう活動をしている会社や組織を支援してもいいですし、実際に自分たち自身で木を植えてもいい。購買行動とビジネス活動とを、自然を豊かにする取り組みに結びつけて、小さくてもいいのでちゃんと形にしていくことが、何よりのメッセージになります。その実現のために、関心のある人に集まってもらってイベントをしたり、ディスカッションしたりということをマルイの店舗で行いたい。気候変動が進む現代において、森づくりこそが本当のサスティナビリティ活動だと私は信じています。
大きくいうと、お互いのビジネスの強みをかけ合わせて、社会課題の解決をインパクトを持って実現することをめざしています。登山好きを応援するところから、山林や自然の保護といったサステナビリティな活動といった領域まで幅広く行っていきたいですし、それを上からの押し付けでなく、今まで自然の中で遊ぶ経験が少なかった人にも楽しい体験を提供する機会をつくることで、社会課題の解決とビジネスのインパクトを達成するという風に、つなげていきたいと思っています。
丸井グループでも「将来世代に残す未来」に真剣に取り組んでいます。その一つとしてヤマップさんとの森づくりが実現できるとすばらしいですね。ぜひ、一緒に取り組んでいきましょう。