天羽健介(著)、増田雅史(著)
はい、試しに変えてみようと思います。
これまでは書評形式で書いていたんですが、文章を書いていると私の場合には、ついつい書き直しとか書き足しがしたくなって、いつまでたっても書き終わらないんです。そうなると、困ったことになってしまいまして。というのも、この「Book Lounge 本と対話」という企画は社内の図書館と連動していて、ここで紹介された本が図書館に一冊ずつ追加されていく仕組みになっているんです。つまり、本の紹介が遅れるといつまでたってもタイトルが増えないんですね。
そうですね。本書も昨年の年末くらいに出版されています。これまで、NFT関連の情報はもっぱらネットを中心に流通していたので、初めての本格的な書籍だと思います。
昨年はメタバースも話題になりましたが、本書はNFTをテーマとしつつも、関連するメタバースや暗号通貨、DAOなどについても解説していて、Web3.0といわれる、次に来る世界の全体像を概観することができます。
とはいえ、あくまでも大まかな知識が得られるだけで、NFTを本当に理解するためには、自分でNFTを購入してみることが一番だとされています。初めての人にもわかりやすく購入手順を教えてくれるセクションもあります。
私も早速NFTを購入したり、DAOに参加したりしてみました。
DAOはブロックチェーン上で展開されるプロジェクトのようなもので、特定のプロジェクトに参加したい人たちがトークンを購入することで参加できます。社長や管理者のような人はいなくて、参加者がそれぞれのできることを通じてプロジェクトに貢献することで、報酬も得られるコミュニティのようです。まだ、参加したばかりでよくわかりませんが、コミュニティの中ではさまざまな活動や情報交換が行われていて、Web3.0の世界が急に身近になったような気がしています。
そうだと思います。そのことは本書が特に強調していることでもありますが、Web3.0にかかわっている人たちは皆さんそう言います。アナロジー的に理解しようとしてもわからない世界なので、ゲームでもアートでもスポーツでもいいから、とにかく自分でNFTを購入して、その世界に触れてみた方が良いと。
本書は30人ほどの専門家がオールスターで執筆したものを編集していて、そのつくり方自体がDAO的でおもしろいのですが、個人的には、神本 侑季さんという方の書かれたセクションが興味深かったです。
神本さんは、「有形資産から無形資産へ」という、このコラムでも以前に取り上げたことのある世界経済の新たなトレンドの中でNFTを捉えています。(「本と対話#005『無形資産が経済を支配する』」)
その潮流の中でNFTは「無形資産のイノベーション」として新たな価値を創出していく、という見方ですが、そこで注目されるのがNFTの実現する新たなファイナンシャル・インクルージョンの可能性です。少し長くなりますが、本書から引用します。
ベトナムのSky Mavis(スカイ・メイビス)が開発した「Axie Infinity(アクシィインフィニティ)」は、イーサリアムブロックチェーンを使った分散型アプリ(Dapp)です。プレイヤーはAxieと呼ばれるかわいいデジタルの生き物を繁殖、飼育し、戦わせ、NFT化されたAxieを取引し、ゲーム内通貨を換金することで収入を得るというもので、コロナ禍のフィリピン経済を支えています。成人のわずか23%しか銀行口座を持っていないフィリピンでは、スマートフォンやPCを通したこのブロックチェーンゲームが、どんな政策よりも金融包摂の機能を果たしているという事実は特筆すべき事象でしょう。
「Play-to-Earn」というそうです。
これを取材した動画をYouTubeで見つけましたので、よかったらご覧ください。(プレイ・トゥ・アーン|フィリピンNFTゲーミング|サブタイトル)
神本さんは、このようなNFTによる金融包摂は日本においても特有の仕方で可能性があるのではないかと言います。
この部分がすごくおもしろいので、引用させていただきます。
日本では、「貯蓄から投資へ」というスローガンが掲げられるようになってしばらく経ちますが、その流れは遅く、日本人の家計金融資産は、依然として「投資」よりも「現金」や「預金」が主です。
デジタル資産でおもしろいのは、金融的な価値と、そのトークン自体が用途を持つユーティリティ要素が、一緒に設計できることです。たとえば、前述のAxie Infinityが発行しているAXSは、暗号通貨でありながら、ゲーム内通貨という用途も持っています。
NFTは、より感情的で、個々人の趣味を反映するものとして、それを補足するような機能を果たすかもしれません。たとえば、最初に紹介したHashmasksなどは、初めて証券口座を開設して難しいリターン予測や投資目論見書を読み解いて金融商品を買うよりも、気に入ったデジタルアートを購入しリターンを得るという体験が、金融リテラシーの低い日本人が金融取引に関心を寄せるきっかけになるかもしれません。
リープフロッグ*という言葉がありますが、個人の投資、家計の金融資産形成がこれほどまでに遅れてしまっている日本の事情を考慮すると、後から登場したNFTを活用した投資の方がカエル飛びのように一気に飛躍して、伝統的な株式投資を凌駕してしまうこともあり得るかもしれません。
特に、日本はゲームやアニメといったNFTと相性の良いコンテンツが充実した「コンテンツ大国」で、推し活も盛んなので、一人ひとりの「好き」、「推し」と「投資」の両方を兼ね備えたNFTによる資産形成というファイナンシャル・インクルージョンが、近い未来には主流なるかもしれません。
* リープフロッグ:既存の社会インフラが整備されていない新興国において、新しいサービスなどが、先進国が歩んできた技術進展を飛び越えて一気に広まること