対話・対談
2024.7.18

無理なく楽しく始めるエシカル消費が、より良い未来への第一歩になる

西村 真由 有楽町マルイ
営業担当
山内 萌斗 株式会社Gab
代表取締役CEO

人・動物・地球に配慮した消費行動である「エシカル消費」。2022年9月に、日本最大級のエシカルメディア兼オンラインストア「エシカルな暮らし」の常設店舗「エシカルな暮らしLAB」が有楽町マルイにオープンしました。同ショップを展開する(株)Gab代表取締役CEOの山内萌斗氏を招き、有楽町マルイに所属する同世代の若手社員とエシカル消費を通じた社会貢献について語ってもらいました。

目次

    ごみを出さない消費行動を促進したい

    ――(株)Gab(ガブ)の創業から「エシカルな暮らし」を立ち上げた経緯を教えてください。

    山内:私は大学1年生の時に、起業家育成プログラムの一環でアメリカのシリコンバレーを訪れました。そこで出会った同世代の起業家たちは「僕らが起業する理由は、人類の存続にマストハブな事業をつくるためだ」と視座の高い目標を掲げていて、すごく刺激を受けました。ただ、いざ自分が起業しようとした時、人類規模の課題解決を目標に掲げて取り組むイメージをどうしても持てず、まずは足元の課題解決から始めたいと思ったんです。

    ――山内さんの足元に何か具体的な課題があったんでしょうか?

    山内:ごみであふれた渋谷の街です。目に見えるところにごみの山があって、そこをネズミが通り抜けているのに、人々はそれが当たり前であるかのように過ごしているんです。私は自然の多い静岡で生まれ育ったので、かなり衝撃を受けました。人類規模の課題はひとまず置いておいて、まずこれを解決すべきだよな、と思いました。
    大学2年生の時に参加したビジネスコンテストでは、「渋谷のポイ捨てをゼロにする」というテーマで、ごみ箱を広告媒体として設置するアイデアを提案しました。それが評価され、1000万円もの資金が集まったので、そのまま大学を休学して渋谷で起業しました。会社名の「Gab」は「Garbage(ごみ)」に由来しています。

    ――広告事業からショップへと進展していったのは?

    山内:起業直後にコロナ禍となり、屋外広告の需要がゼロになってしまったんです。イチからビジネスアイデアを検証し直さなくてはならなくなった過程で新しい方向性を二つ見出しました。一つ目は、そもそもごみを出さない、または減らす消費行動を促進すること。二つ目は、捨てる人よりも拾う人を増やすことです。そうした過程を経て、「エシカルな暮らし」と「清走中」という二つの事業を立ち上げました。
    「エシカルな暮らし」は、エシカルブランドに特化した商品販売・グロース支援のプラットフォームです。Instagramのアカウントの立ち上げからスタートし、毎日投稿を続けてフォロワーが1万人に到達したタイミングでECサイトを開設しました。その後、各所でポップアップイベントを開催し、現在は有楽町マルイで常設店舗を営業するまでにいたります。
    「清走中」は、ごみ拾いとゲーミフィケーションを組み合わせたまったく新しいエンタメイベントです。街に落ちているごみをゲームアイテムとして活かしながら、制限時間内にミッションをクリアすることで、上位チームには豪華景品が贈呈されます。これまでに全国22地域以上で開催し、累計3000人以上の方にご参加いただいています。

    ――西村さんは、社会課題解決に関心があって丸井グループに入社したとお聞きしました。関心を持つようになったきっかけを教えてください。

    西村:高校からインターナショナルスクールに入学したことが大きなきっかけです。全体の3分の2が帰国子女で、特に欧米出身の友人たちはサステナビリティに対する意識が高かったです。日常的に環境問題などを話題にしている友人たちを前に、入学してすぐのころは、「私、めっちゃ遅れてる」と焦りました。
    その後、大学時代にSNSで大好きなコスメの情報発信を始めました。サステナブルなコスメの情報も発信していましたが、商品を購入する入り口は「サステナブルであること」ではなく、「デザインや使用感に魅力を感じるかどうか」だと私は思っています。そのため、フォロワーさんにも「自分がすてきだと感じたものが、実はサステナブルだった」という購買体験をしてもらえるような発信を心がけていました。
    こうした経験から、社会課題解決に本気で取り組んでいて、かつ消費者と接点のある丸井グループに入社しました。有楽町マルイの営業を希望したのも、「エシカルな暮らし」が展開するような、人の暮らしや環境を思いやる商品をお客さまにしっかりお届けしたいと思ったからです。

    ストーリーに共感してもらえる接客を大切に

    ――有楽町マルイのリアル店舗は、これまでのオンラインでの販売とは何が違いますか?

    山内:商品の良さに納得して購入するお客さまが、圧倒的に増えたと感じています。例えば、アップルレザーからできているイヤホンケースやココナッツレザーでつくられた名刺ケースって、SNSで見かけるとインパクトがあるので興味を引くのですが、購入にはつながりにくいんです。
    理由としては、エシカルアイテムが新素材・新概念であることから、「リンゴの香りがするんじゃないか」「素材がもろいんじゃないか」という新しい素材に対する誤解や不安に加えて、比較的高価格な商品なのでしっかりと吟味して買いたいという想いなどが挙げられます。
    リアル店舗をオープンしてからは、「Instagramで見ました」というお客さまが数多くご来店くださっています。実際に商品を目で見て触ることで、デザイン性・機能性はもちろん、ユニークな新素材を気に入って価格に納得したうえでご購入いただけています。
    また、私たちの店舗では、商品のストーリーやエシカル消費に共感していただけるように、お客さまとのコミュニケーションを大事にしています。

    西村:ふらっとご来店されたお客さまに対するお声がけがすばらしいですよね。サステナビリティやエシカルに関心がない方でも、思わず商品を手に取ってしまうような接客をされていて、私も聞き入ってしまったことがあります。

    山内:「ブランドの分身になる」という店舗のコンセプトを掲げて、Instagramの6.8万人のフォロワーさんの中からスタッフを採用しています。スタッフは、まず商品のストーリーや背景を紹介して、最後に社会課題解決の話をするようにしています。その方が気軽にお店に立ち寄りたいと思いますよね。商品ごとにどのようなスクリプトでご案内するか、週単位で必ずブラッシュアップしているんです。

    西村:そうなんですね。正直、「エシカルだから」という理由で購入していただくのは、まだハードルが高いと思っています。先ほどもお話ししましたが、「すてきだな」と思って購入したものが、実はエシカルだったという消費行動は、自分自身と社会のどちらにとってもメリットがあるし、本当の意味でのエシカル消費だと思います。自分の消費が社会課題解決に貢献していると実感できるのはいいですよね。

    山内:そうですよね。通常の購買体験に加え、貢献感を得ることができるエシカル消費は、最上級の購買体験だと思っています。私は、アドラー心理学の「人間のしあわせの本質は他者への貢献感からなる」という考え方が好きで、日々意識して仕事をしていますが、まさにそれを実現してくれるものです。エシカル消費を通じて、より多くの人にしあわせ体験を提供していきたいですね。

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    「楽しそう」から始めるエシカル消費

    ――エシカル消費を拡げるために、意識されていることはありますか?

    山内:「~は環境破壊だ!」「環境保護のために~するな」などと怖い顔で訴えるのではなく、自分自身がエシカルなライフスタイルを楽しんで発信することですかね。そうすることで、より多くの人が社会課題解決へ高いハードルを感じずに、楽しくエシカル消費を始めることができるのではないかと思っています。

    西村:すごくわかります。高校生のころに環境問題に取り組んでいる時、「これをするとごみが増えるのでやめましょう」「ペットボトルを使用するのをやめましょう」など、「やめる」という選択肢ばかりでした。でも、喉が渇いたらコンビニでペットボトルの飲み物を買っちゃうじゃないですか。共感できないことに対してアクションを起こすのはなかなか難しいと思います。それよりも、キラキラして楽しそうなエシカルライフスタイルに憧れて、そうなりたいから行動しようと思う人の方が多い気がします。

    山内:特にヨーロッパでは、グレタ・トゥーンベリさんを筆頭に環境活動が活発ですよね。対して、日本では環境活動家の数もデモへの参加人数も圧倒的に少ないようです。これは、日本人が社会課題解決に無関心というわけではなく、文化によってコミュニケーション方法が違うだけだと思っています。日本では「空気を読む」という言葉があるように、自分の意見を声高に主張する習慣がまだ醸成されていないように感じます。

    西村:そう考えると、自分の好きなものを購入することで社会貢献できるエシカル消費は、日本人の国民性にすごくフィットしていますよね。
    私は、モデルのローラさんのSNSをチェックしているんですが、いつもエシカルなライフスタイルを積極的に発信されていて、すごく憧れています。InstagramやYouTubeのコンテンツはキラキラして見えるけれど、実はサステナブル、エシカルという発信方法がすてきだなと思います。

    山内:「エシカルな暮らし」のお客さまの間でも、ローラさんのファンがすごく多いんですよ。
    誰かへの憧れや「楽しそう」という想いで、アップルレザーのイヤホンケースや名刺ケースなど、身近なものから自分の暮らしに取り入れるのって、すごくいいですよね。
    「エシカルな暮らし」がそういうお客さまの選択肢になれていることが、うれしいです。

    西村:私もアップルレザーの名刺ケースを使っています。実は、今日使っているアイシャドウもサステナブルな商品なんです。

    山内:へえ、すてきですね。

    西村:ありがとうございます。
    「環境に良くないからやめる」のようにネガティブなものを取り除くだけではなくて、楽しそうだからとか、自分もそうなりたいからやってみるというマインドでアクションすることで社会課題解決につながるのがベストな道筋だと思います。難しく考えずに、気軽にエシカル消費を始めてみるのもいいかもしれませんね。

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    店舗を起点に社会ムーブメントが生まれる

    ――山内さんは、丸井グループの社会課題に対する姿勢をどのように感じましたか?

    山内:丸井さんと共創して驚いたのは、どの社員さんとお話ししても、サステナブルやエシカルが共通言語として浸透していることです。一般的に、企業の経営層は社会課題解決を掲げていますが、なかなか現場に落とし込めていない例が多いです。でも、丸井さんは所属に関わらず、どの社員でも、それを重要目標として意識しながら私たちテナントに接してくれるので、かなり珍しいなと思いました。
    マルイ店舗で初めてポップアップイベントを開催した時の担当者とは、お客さまにエシカル消費やサステナブルなライフスタイルを楽しく知ってほしいというマインドが一致して、すぐに意気投合したのを覚えています。

    西村:本当ですか?うれしいです。

    山内:丸井さんや私たちのような、サービスや商品を提供する側が、お客さまの「好き」や「楽しい」にエシカルやサステナブルが重なるような体験を提案していかないといけないと日々感じています。
    丸井さんにこうしたマインドが浸透しているのは、きっと青井代表がビジョナリーであり続けているからなんでしょうね。

    ――今後、丸井グループとどのような共創をしたいですか?

    山内:マルイ店舗のお客さまの行動変容のきっかけづくりができるといいなと思っています。例えば、マルイに通っていたらいつの間にかエシカルな商品を買っていたとか、知らず知らずのうちにサステナブルなものに興味を持っていたとか。まずは有楽町マルイの店舗を起点に、数万人規模のお客さまに対して、そういう体験を提供したいです。いちテナントとしてだけではなく、館全体を巻き込んで取り組んでいきたいですね。

    西村:いいですね!ぜひ一緒に進めていきたいです。

    山内:一人ひとりのマインドや行動が変われば、結果として社会にとって大きなインパクトになると思います。お客さま一人ひとりに対して直接的かつ深くアプローチができる店舗は、きっかけづくりの絶好の場になります。

    西村:そうですね。2026年に渋谷マルイが木造建築に生まれ変わってオープンしますが、店舗がそういう場になっていけると良いと思っています。

    山内:渋谷マルイは、世界初の木造商業施設にするというところから、丸井さんの「将来世代の未来を共に創る」というインパクトに向けた想いが詰まっていると思います。各店舗がどのようなインパクトを生み出そうとしているのか、それぞれにメッセージを掲げると、店舗を起点として社会ムーブメントが生まれていきそうな気がしています。私もそこにジョインして、共創していきたいですね。

    山内 萌斗

    株式会社Gab 代表取締役CEO 2000年生まれ。MAKERS UNIVERSITY 5期生。「ポイ捨てをゼロにする」という想いで、静岡大学在学中に株式会社Gabを創業。現在は、エシカルブランドに特化した商品販売・グロース支援プラットフォーム「エシカルな暮らし」やゲーム感覚ごみ拾いイベント「清走中」などを運営する。2022年には、有楽町マルイに常設店舗「エシカルな暮らしLAB」をオープン。

    「エシカルな暮らし」公式Instagram - https://www.instagram.com/ethikura/

    「エシカルな暮らし」公式ECサイト - https://ethikura.com/

    西村 真由

    有楽町マルイ 営業担当 2023年入社。高校生のころから社会課題に関心を持ち、課外授業の一環として環境先進国のドイツで環境政策を学ぶ。ビジネスを通じて社会課題を解決したいという想いから、丸井グループに入社。現在は、有楽町マルイの営業担当として、おもに販促業務に従事。

    有楽町マルイ公式Instagram - https://www.instagram.com/yurakuchomarui_official/