対話・対談
2020.10.15

持続可能な社会に寄与するビジネスとは

丸井グループでは、今後の経営にとって重要となるさまざまなテーマについて考える場として「中期経営推進会議」をほぼ毎月開催しています。2020年2月には、「持続可能な社会に寄与するビジネスとは」というテーマで、株式会社ユーグレナ 取締役副社長 兼 ヘルスケアカンパニー長 永田 暁彦氏にご登壇いただきました。

目次

    "動物であり、植物である"ユーグレナで、バングラデシュの栄養失調問題を解決したい

    ユーグレナ社は、2005年12月に世界で初めて微細藻類ユーグレナの屋外大量培養に成功したベンチャー企業です。約9万人いる株主さまの3分の2以上は長期保有の株主さまで、長きにわたり私たちのことを応援してくださる皆さまに支えられている会社です。

    創業のきっかけは、代表取締役社長の出雲が18歳の時に、当時アジア最貧国といわれていたバングラデシュへインターンシップに行った際、現地の栄養失調問題を目の当たりにし、「これを日本の技術でなんとか解決しよう」と考えたのがスタートでした。
    ユーグレナという社名の由来になった微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)という生物は、光合成をして増える植物の性質、自分で水中を泳ぎまわって太陽光を探しに行くという動物の性質を持っています。和名で「ミドリムシ」と呼ばれているのですが、この名前のせいで、日本中の人からちょっと気持ち悪いと思われ、実力よりも低く評価されているかわいそうな生物です。ですが、「動物であり、植物でもある」ユーグレナには、実は動物性の栄養素と植物性の栄養素、あわせて59種類もの栄養素が含まれています。そこで出雲は、「これをたくさんつくってバングラデシュに持っていこう」と思い、研究をスタートしました。

    「人と地球を健康にする」を経営理念に、「売上が伸びると社会が良くなる事業」をめざす

    それから15年経ち、今はさまざまな事業を展開しています。ユーグレナを活用した食品・化粧品の販売や、遺伝子解析を活用した将来の健康リスクの解明、また、ユーグレナでバイオ燃料を製造し、そこから出た搾りかすを飼料として活用する研究も行っています。特に、このバイオ燃料と飼料に関しては、地球温暖化で問題となっている石炭火力発電所から出るCO₂をユーグレナの光合成で固定化して燃料と飼料をつくるプロジェクトをインドネシアとコロンビアで展開しています。私たちの会社の理念は「人と地球を健康にする」です。これを"ユーグレナを大量につくる"ことで実現していきたいと考えています。

    また、豊富な栄養素を持つユーグレナを入れたクッキーを、バングラデシュの子どもたちに無償で配布する「ユーグレナGENKIプログラム」に取り組んでいます。2014年からこのプログラムを開始し、現在は毎日約1万人の子どもたちにクッキーを配ることができています。このプログラムは自社の売上の一部を拠出することにしているため、私たちユーグレナ社の売上が伸びることで、バングラデシュの給食のない小学校がそれに比例して少なくなります。このように、私たちは自社の売上を伸ばしていくことで、社会問題の解決をめざしています。ただし、寄付だけでは長期的に継続していくことが難しいので、現地で新しい事業を立ち上げ、その収益をすべてバングラデシュに還元するというビジネスを進めています。株主さまは「もっと株主に還元してほしい」と思われるかもしれませんが、私たちはこのビジネスをやめません。なぜなら、私たちがめざしているのは、「売上が伸びると、社会が良くなる会社」だからです。「事業が拡大すると、社会問題が縮小する」、そういう会社をつくりたいのです。「自分たちの人生を使って売上が5倍になったら、社会問題も5倍解決する。売上が10倍になったら、世の中が10倍良くなる」と信じています。この想いが、自分たちの中期戦略や日々の行動に影響を与えているのです。

    バイオジェット燃料で「気候変動」を解決する

    そして今、気候変動という次なる社会問題の解決に挑戦しています。2030年までに世界のCO₂排出量を一定以下にしないと、人類は生きていくことができないといわれています。私にはまだ幼い子どもが二人いるので、彼らが生きる未来はどうなっているのか、いつも考えています。
    私たちにできることには限界があります。一方で、ベンチャーだからこそやれることがあると信じています。現在、ジェット燃料に使う石油の量を減らし、植物由来の原料でつくったバイオ燃料に代替することで地球を健康にする取り組みを行っています。" Flight shame(飛び恥) "という言葉が最近聞かれますが、飛行機は地球上の乗り物の中で一番地球の大気を汚す移動体の一つで、ドラム缶をずっとひっくり返しながら飛んでいるようなものなのです。経済発展が進むにつれて、航空旅客者数は毎年増え続けており、ここ20年間で世界全体では3倍、アジアでは4.4倍に増えています。その中で、今年から国際線を持つ大きな航空会社を中心に、CO₂排出規制がかかるようになります。その解決策として、植物由来の原料でつくったバイオ燃料への代替えが考えられています。しかし、日本はバイオジェット燃料での有償フライトをこれまで一度も行ったことがありません。なぜなら、日本にはバイオジェット燃料が1滴もないからです。今、バイオ燃料への切り替えを世界で一番進めているのは、インドです。インドでは、すでに石油の輸入を半減させており、バイオ燃料への切り替えを宣言しています。2030年までに、世界のジェット燃料マーケットは61兆円まで拡大し、バイオジェット燃料はその中の12兆円ほどのマーケットになると予測されています。日本のジェット燃料マーケットは、現在1兆円ほどと言われていますが、バイオジェット燃料のシェアは0%です。このまま私たちが何もしなければ、2030年になってもきっと日本のバイオジェット燃料のシェアは0%のままでしょう。

    そこで、私たちは自分たちでバイオジェット燃料をつくる製造プラントに投資することを2015年に発表しました。2018年11月に日本で初めての、そして日本で唯一のバイオジェット燃料のプラントが完成しました。これにより会社は大きな出費を負担していますが、私たちはやり続けます。なぜなら、私たちが働く概念や会社を経営する概念が他社とは異なるからです。「会社を大きくして、社会を良くしたい」、「石油でしか飛べない日本の航空会社に、CO₂を削減できるバイオ燃料を供給したい」そういった想いで取り組んでいます。投資家の方はなぜ企業に投資するのか。社員はなぜその企業で働いているのか。これは、100社あれば100の理由があっていいと思います。しかし、ステークホルダーが私たちの会社に期待しているのは、経営者として"自分たちらしさ"を貫くことだとわかっていうので、私たちはこれをやり続けるのです。現在、世界中からさまざまなオファーが私たちに届いており、社会問題に本気で取り組むと、新たな機会が生まれることを実感しています。社会問題とは、一生懸命話し合わなくても、皆の頭の中で共通化していけるものだと考えています。

    fv_02_02.jpg

    未来の大人たちへのインタビューをきっかけに、「18歳以下のCFO」を募集

    昨年、スウェーデンの環境活動家であるグレタ・トゥーンベリさんが、強い問題意識を持って世界中に訴えかける姿を見て、今の日本の子どもたちは未来の地球についてどう思っているのだろうと思い、「未来の大人たち」にインタビューをしました。

    インタビュー動画はこちら(YouTube:「未来の大人たちに聞いてみた。」

    昨年の5月に、この動画に出てくる10歳の未来の大人たちに出会い、「未来が自分ごとであるかどうか」という点が今の大人たちとの大きな差だと思いました。また、彼らは、今の世の中の都合を無視して本来やるべきことを言える、というとてつもない力を持っていることに気づきました。18歳以下というと、社会経験がないために未熟だと思われがちですが、だからこそ本質をとらえて本来言うべきことが言えるのではないかと思います。

    このインタビューをきっかけに、私たちが次に取ったアクションが「CFOの募集」です。未来を語る時に30代の自分たちでは不十分だと考え、18歳以下を対象にCFO(Chief Future Officer:最高未来責任者)を、ユーグレナ社に入れることを決めました。そして今、Chief Future Officerは小澤 杏子という2002年生まれの高校生が務めています。また、CFOとともに、フューチャーサミットメンバーを募り、ユーグレナグループの将来ビジョンや中期経営企画、そして「世の中の都合を無視して本来今すぐやるべき行動」などについて議論しています。なぜ彼らがこれだけ本気かと言うと、私たちが本気だからです。「子どもの意見を聞いてみましょう」という会ではありません。彼らは自分の発言や思考、アクションが上場企業を動かし、社会を変えられるかもしれないという期待を持っているのです。このCFOの募集を決めた時、彼らに向けて「日本には『いつか、誰かが、何とかしてくれる』という考えがはびこっている」、「18歳以下だろうと、もしも本気で社会を変えたいのであればアクションしよう」というメッセージを伝えました。そして、彼らのアクションに私たちは本気で付き合うということを決めて始めました。これまでは、18歳以下の意見や考えは、経営に含まれていませんでした。なぜなら、彼らは勝手に未熟だと決めつけられて、将来に一番責任がある世代なのに議論に加われなかったのです。私たちはこれを変えてくと決めました。丸井グループでも将来世代を一つの重要なステークホルダーとしてとらえていると思いますが、私はそういった考えを持って企業の行動を変容していくことが、本来あるべき中期的な戦略だと思っています。「人と地球を健康にする」ために、前のめりに、倒れるまで、やる気満々で、次世代の経営者として、この事業、そして「事業が成長すれば、社会が変革する」という企業経営を、命懸けでやっていきたいと思います!

    トークセッション

    永田氏の講演後には、ユーグレナ社および丸井グループの社外取締役を務める岡島 悦子氏とのトークセッションも行われました。

    fv_02_03.JPG

    (左から)岡島氏、永田氏

    岡島:「事業が拡大すれば、社会問題が縮小する」とありましたが、ユーグレナ社がここまでやってこられた要因は何ですか?

    永田:私たちは、社会にとって本当に必要なことは何かを一番に考えて取り組んできました。また、私たち人間はモチベーションを維持し続けることがとても難しいものです。なので、社会を変えたいという想いがピークの時に、世の中に向けてその想いを宣言するということはとても大切だと思っています。

    岡島:世の中に向けて宣言することは、私もすごく重要だと思っています。ただ、モチベーションの維持は、宣言しただけでは難しい気がしているのですが。

    永田:自分が「どういう経営者ですか」と問われた時に、会社がどれだけ大きくなっても、自分の資産がどれだけ増えても、私たちのやっていることが社会や人のためになっていないと満足できない人間だと自分でわかっている、ということが非常に大きいと思っています。また、私は絶対に約束を守る男なので、「ユーグレナで飛行機を飛ばす」と宣言してから12年、20代からすべての青春をかけて挑んでいます。これは、ただやりたいという情熱よりも、それに出資してくださった人や、商品を買ってくださっている人たちに恩返ししたいという想いがベースにあることも大きいです。

    岡島:本当の意味でサステナブルにしようとすると、やはり売上も上がって、個人としても会社としても心理的な安全性を保ち、そしてステークホルダーもみんなハッピーになって、社会も変わる、これが大切ですよね。

    永田:経営者として、これまでの経済成長の恩恵を受けてただ刈り取るだけの経営をするのか、それとも、この共有化されている畑を皆でもっと豊かにして、良い作物をつくりながら刈り取っていくのか。どちらの発想をするのかが非常に大きいと思っています。

    岡島:なるほど。やっぱり未来が自分ごとかどうか、が大きく関係していると思うのですが、ユーグレナ社を見ていると、約400人の社員がかなりそういう状態になっていますよね。それは採用なのか、企業文化の浸透なのか、何に由来しているのですか?

    永田:未来が自分ごと化できている社内のメンバーの数は、まだ私としてはまだ多くできる余地があると思っていますが、未来を変えられることにワクワクできているというのはあると思います。私たちのベースは、根が良い人で、共感力がある人の採用です。その人たちに、私みたいな人間がずっと「こうやって世界を変えるんだ」と言っていると、だんだん皆そう思うようになる。最初から「環境に取り組みたい」「途上国を何とかしたい」という人ばかりが集まっているわけではなくて、私たちの時間の使い方や新しい方向性に対して「そうだね」って共感してもらえる人が入社してくれていますね。

    岡島:ありがとうございます。ユーグレナ社は社長の出雲さんも永田さんもまだお若いですが、世代の強み、「世代の違いを活かす」ことについて思っていることはありますか?10代のCFOやフューチャーサミットメンバーの子たちにつないでいく時代の責任、世代の責任とか。

    永田:そうですね。10代でも70歳以上の人でも想像力や自分ごと化力、つまり自分が未来のその時代に生きているか生きていないか関係なく何のために時間を使うかを判断できる人はいると思うので、世代の問題ではないと思っています。ただ、今の10代のように、未来のその時代を生きることがわかっている人の方が、当然自分ごと化しやすいというのはありますよね。私は自分が死ぬ時に「何に人生を使ったか」という通信簿がやって来ると思っています。「あなたは95%自分の欲のために生きていたね」という通信簿が来るのかどうか。どんな通信簿が来るのか設計できるのが経営者で、その企業を選択するのは皆の自由です。そういう意味では、通信簿の種類が増えたら良いなと思っています。

    岡島:自分の人生の時間を何に使って、一番投資したのは何か、みたいなことですね。

    永田:はい。顧客や労働者、投資家などすべてのステークホルダーの変容を予測しながら、それぞれのステークホルダーに対して、どう向き合っていくのかを戦略の中にきちんと落としこんでいくことが重要だと思っています。

    この記事に関する投稿
    この記事をシェア