丸井グループでは、今後の経営にとって重要となるさまざまなテーマを考える場として「中期経営推進会議」をほぼ毎月開催しています。2019年12月には、「理想と現実のギャップを埋める―気持ちのいい社会の実現と挑戦」というテーマで、オンラインを活用した傘のシェアリングサービス「アイカサ」を展開する(株)Nature Innovation Group 代表取締役 丸川 照司氏にご登壇いただきました。
私たちは雨の日を快適にすること、そしてハッピーにすることを目標に、「アイカサ」という傘のシェアリングサービスを行っています。私は19歳くらいの時から、「世の中の変なところを変えたい」とずっと思っていました。そうした中で、中国のさまざまなシェアリングサービスを実際に調べていくうちに、日本ではかなりの量の傘が購入されていることを知り、「これが変わったらおもしろいな」と思ったことが今のサービスを始めるきっかけでした。
ビニール傘の問題は、"使い捨て"ということにあると思っています。都内では、約15万人が雨の日に傘を買い、年間で約8,000万本もの廃棄が日本全国で生まれています。これはとてももったいないことですが、ビニール傘は、その場しのぎのためにつくられているので値段の安さが優先され、どうしても壊れやすく、使い捨てが多くなってしまいます。
そのような中で、アイカサが支持されている要因は4つあると考えています。まず1つ目は、時代の変化です。若い世代を中心に消費がモノからコトへと変化する中で、「何のために傘を買っているのか」と考えた時に、「ただ濡れたくないだけ」という考え方が広がってきていると思います。2つ目は、大企業とのオープンイノベーションの場が、近年すごく加速していることです。これは、事業を成功させるための非常に大きなファクターなので、これがなければアイカサは絶対にうまくいっていないと感じています。そして3つ目は、「持続的な社会のあり方」や「本来どんな社会が理想なのか」ということに、世の中の関心が少しずつ向かっているため、アイカサの事業が共感を得ているのだと思います。最後に4つ目は、ITがより多くの層まで行き届いていることです。このシェアリングサービスは、オンラインを通じてオフラインのサービスを届けるので、「スマホ決済」が浸透していることも非常に追い風になっています。この4つの要素があって、アイカサは順調に事業を進められています。
雨の日は、私たちの行動が大きく変わります。例えば、ランチにラーメンを食べに行こうと思った時に、雨が降っていると傘を買わないといけない。傘が600円もするのでランチ代が2倍になってしまう。すると、「もったいないよね」とランチに行くのをやめてしまい、機会損失につながってしまいます。なので、私たちは天気に関係なく、いつでも好きな場所に移動できるような世界を実現したいと思っています。
そして、傘とアイカサは何が違うのかと言うと、アイカサは傘をIT化した存在だと思っています。雨に濡れやすい場所にビニール傘を届ける専門の事業者はいないので、日常生活で欲しいと思う場所にビニール傘が売っていないという現実が結構あります。私たちはこれをデジタル化することによって無人運営ができるので、いろいろな場所に置けるというメリットが出てきます。移動の始まりと終わりの点に傘を置くことで、雨の日の移動をサポートすることができるのです。
アイカサは、渋谷からスタートしました。観光地でありながら、ビジネスマンや学生も多いので、いろいろなテストができると思ったからです。渋谷で空き地があれば、その場所のオーナーさんにお声がけして、「傘のシェアリングをやりたいです。傘を置かせてください!」という営業をたくさんしました。ただ、「傘のシェアリングって何?」というところから始まり、「何でやっているの?」と笑われることも多々ありました。その後、上野でトライアルした際に、上野マルイの方から「アイカサのことを知りたい」とお問い合わせいただき、説明にうかがいました。そのころ、アイカサは世間でもそこまで認知されておらず、まだ実績を積まなければいけない時期でしたが、担当者の方がとても好意を寄せてくださり、地域の商店街の方々が出席する会に呼んでいただきました。そこで多くの皆さんにさらにご支持いただき、JR上野駅をはじめ上野のさまざまな場所に設置することができました。このように、渋谷や上野からサービスをスタートし、いろいろな仮説を持ちながらトライアルをくり返しました。
また、鉄道会社さまとも協業させていただいたことにより、一気にユーザーが伸び、リピート率も圧倒的に伸長しました。移動のサポートを担う鉄道会社さまとの協業は、アイカサの事業とすごくマッチしました。今後は、全沿線全駅に設置することをめざしていきたいと思っています。そうすることで、雨の日の東京の経済圏が少し広がるのではないかと期待しています。
駅に設置することは、さまざまなメリットがあります。これまでは、私たちがいろいろな場所に営業に行っていましたが、現在は一切していない状態です。「アイカサを置くことで駅との導線ができ、お客さまの利便性が上がる」という理由から、オフィスビルや、マンション、さらにはコンビニまで、さまざまな場所から「アイカサを置きたい」と言っていただいています。現在シェアは徐々に拡大しており、近い将来には都内に年間約20万本を流通させたいと思っています。ビニール傘の消費が年間約15万本なので、ビニール傘とアイカサのシェアを半々近くにすることをめざしています。もちろん都内だけの話ではなく、日本全国に拡大してきたいと思っています。
今はまだイメージしづらいと思いますが、「ビニール傘って、そもそも何で買うの?」という気持ちを醸成し、雨の日のユーザーの行動を変えるとともに、使い捨てのビニール傘をゼロにする、これが私たちのめざしているところです。ただ、もちろんそれだけでなく、いろいろなオフライン事業者の皆さんとアライアンスを組みながら、生活に関するサービスも今後展開していきたいと思っています。
私は、どんな事業でもタイミング次第でそれは必ず実現すると思っています。知識がないとできないとか、やったことがないとできないという固定概念は、足かせになってしまいます。ですが、難しいことでも絶対できると思ったら、案外できる方法を思いつくことがあります。なので、知識や経験がなく、無知というのは、逆に強い武器にもなります。私は無知じゃなかったら、途中で挫折していたと思います。無知だからこそ飛び込んで行けて、挑戦することができる。そして、そこで決してあきらめず、必ずできる方法を見つけることを大事にしていたからこそ、今の結果につながったのではないかと考えています。もちろん、その分遠回りもしましたが、結果的にそれが一番の近道だったかなと思います。
傘のシェアリングサービス「アイカサ」(@ikasa1111)を展開する丸川 照司氏(@1109_sm)が、丸井グループの中期経営推進会議にご登壇いただいた際の内容をご紹介しています!
— この指とーまれ! (@maruigroup) 2020年11月12日
講演内容の詳細は、下記よりご覧ください。https://t.co/v2Pn6WFMWH#アイカサ #シェアリング #フィンテック pic.twitter.com/L8S6dF52yP