Book Lounge
2020.2.28

#003 D2C―「世界観」と「テクノロジー」で勝つブランド戦略

佐々木 康裕(著)

目次

    img_bl_001.jpg

    「D2C元年」の幕開けを告げる"決定版"

    ブック・ラウンジのスタートに当たって、また、2020年の年初を飾るにふさわしい一冊としてご紹介したいのがこの『D2C』です。
    なぜなら、本書はこれから私たちが向かおうとしている未来を指し示すとともに、始まったばかりの2020年を予言してもいるからです。
    そう、2020年は「D2C元年」になるでしょう。
    2019年が「キャッシュレス化元年」であったように、今年はD2Cが広く認知される年になると思います。
    本書が、日本におけるD2Cの幕開けを告げることになるだろうということは、実は昨年からわかっていたので、いち早くお知らせしたかったのです。
    Book Loungeが開設されたおかげでその機会が得られたことに感謝します。

    D2Cについては、すでに米国では10年近く前から、日本でもベンチャー業界では、しばらく前から注目されていて、一般の人たちの間でもSNSのインフルエンサーが始めたブランドなどとして話題になっていましたが、本書はその初めての本格的な入門書です。
    バズワード的なちゃらちゃらしたD2Cではなく、

    産業構造の変化や、テクノロジーの進化、ミレニアル世代の価値観の変化などを踏まえてD2Cの本質に迫っています。

    とても完成度の高い、完璧な入門書です。

    僕が大好きになったのは、まず装丁です。
    デジタルな色のグラデーションを地に、縦にすっと配されたD2Cのロゴ。
    D2Cがデジタルとデザイン、アートが融合した新しいタイプのビジネスであることが直感的に伝わってきます。
    ちなみに、この表紙のデザインは「Book Lounge #002」の『アフターデジタル—オフラインのない時代に生き残る』(藤井保文、尾原和啓共著)を思い出させます。
    試しに、『アフターデジタル』と本書を並べてみてください。
    まるで兄弟のようではないですか?
    さらに、その横に『ティール組織—マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』(フレデリック・ラルー、嘉村賢州共著)を置いてみてください。
    不思議と何かがつながっているように見えてきます。

    本好きのマニアックな話はさておき、内容ですが、これは敢えて触れないことにします。
    読んでのお楽しみです(そんな書評あるのか!怒)
    代わりに、なぜ何をおいても本書をおすすめしたいのか、という理由について少しだけお話しさせていただきます。
    それは、

    D2Cがまさに革命的であり、未来への希望を表していると思えるからです。

    その理由は二つあります。
    一つは、D2Cが顧客とビジネスとの関係をこれまでと一変させ、私たちが長年そうあるべきだと夢みて、望んできたことを実現しつつある、ということです。
    お客さまと私たちの関係は、売り手と買い手、川上と川下、狩人と獲物(ターゲット)、生産者と消費者などなど、さまざまな言い方ができますが、とにかく対立する関係でした(広い意味でこれも「二項対立」です)。
    僕にとっては、この関係は居心地が悪く、何とかできないものか、とずっと思ってきました。
    お客さまニーズや、お客さまとの共創の取り組みを通じてめざしてきたのは、お客さまと向き合い、対立する関係ではなく、お客さまの横に並んで、同じ方向を見ながら一緒に歩んでいくような関係をつくることです。
    お客さまをターゲットとしてではなく、パートナーとして共に歩むこと、共にビジネスを創っていくこと。
    それが共創ということだと思っています。

    ちなみに、これとほぼ同じような趣旨のコメントが「D2C」の中に出てきます。
    私たちが特に大事だと思っているのは、顧客を私たちの会社の「共創者」(co-creators)であり「共謀者」と思っていることです。
    これは、GlossierのCEOの言葉です。
    どうですか?
    あまりにも私たちの共創と似ていませんか。
    もちろん、Glossierはとてもデジタルで、私たちはまだとてもアナログという違いはありますが、感性的にはほぼシンクロしていると思います。
    こうした顧客との関係性がどこに行き着くのかというと、「売らない」ビジネスになります。
    なぜなら、売る必要がないからで、売らなくても結果的に売れてしまうからです。
    広告もキャンペーンも販売促進も必要ありません。
    世界観に共感するから買う、好きだから買う、コミュニティの一員である証として買いたい、友達だから応援したい、などなどの理由で、売れてしまうのです。
    このような顧客と企業の関係性こそ本来ビジネスがめざすべきものではないでしょうか。
    私たちがめざす「売らない店」も店全体、ビジネス全体としてこのような関係性を実現したいというものです。
    そのためにも、これから生まれてくる多くのD2Cと協業していきたいと思っています。
    また、店、小売だけでなく、フィンテックも含めてグループ全体として、D2C的な企業に進化していきたい、そう願っています。

    もう一つは、将来世代と関わっています。
    D2CはShopify(日本ではBASEなど)のようなECプラットフォーム・サービスとインスタグラムのようなSNS、さらにはAWSのようなクラウド・サービスの登場によって、大企業でなくても小さな企業でも、さらには個人であってもビジネスができるようになってきた時代背景から誕生しました。
    これまでのように小売業やマスメディアを介して間接的に消費者とつながるのではなく、自分たちのECサイトとSNSを通じて直接的に消費者とつながるビジネスができるようになりました。
    このことは、さまざまな面でビジネスのあり方を根本的に変革しつつあり、それは本書の中で詳しく解説されているので、お読みいただきたいと思います。
    そうした変化の中で、最も重要なのは、ビジネスを始めるにあたって必要な資本とコスト、またスキルやノウハウといったハードルが、従来とは比べものにならないくらい低くなったことです。
    多額の資本や運転資金、あるいは高度なITスキルなしにビジネスが始められることで、より多くの若者たちが起業できるようになります。
    さらに、消費者と直接的、かつローコストでつながれるようになることで、小さなビジネスでも成り立つ可能性が拓けてきます。
    小さなビジネスというのは、マニアックなビジネスと言い換えてもよいかもしれません。
    従来だったらマーケットが小さすぎて、とても採算に乗らなかったビジネスもファンに支えられることで成り立つ可能性が高まります。
    ということは、仮に小さなマーケット、少数の顧客しか見込めないビジネスでも成り立つ可能性があります。
    マーケットリサーチでそれなりの市場性が確認できなくても、

    私の好きなこと、あなたの好きなことをビジネスにするチャンスが生まれるのです。

    これはすばらしいことだと思いませんか?
    これからは、特にミレニアルやZ以降の将来世代は、生まれながらに親しんだITスキルやSNSでのコミュニケーションを通じて、自分の好きなことで起業することができます。
    そして、D2Cの特性からして、自分の好きなこと、マニアックなまでに夢中になれることこそ、プロダクトづくりだけでなく共感を通じたコミュニケーション、コミュニティをつくるための強みになります。
    好きなことに夢中になって打ち込むことが、ビジネスにとっても最高の戦略になるのです。
    ですから、将来世代には、ライフとワークを分けるのではなく、自分の好きなことを仕事にして、自分の人生を生きて欲しいと思います。
    人生と仕事という二項対立を超えて自己実現できる将来世代を一人でも多く輩出するために、D2Cは大きな力になれるのではないか。
    これが、僕がD2Cに託す夢です。
    この夢の実現に向けてD2Cへの投資はもとより、さまざまな協業の手立てを開発し、さらには、D2Cのエコシステム全体を育めるような仕事をしていきたい、そう思っています。

    少しでも多くの皆さんが本書を読んでいただくことで、D2Cの理解を共有し、未来に向けたビジネスを共創できることを期待しています。

    この記事に関する投稿
    この記事をシェア